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――同日――
路地裏の暗がりを、幾つかのくぐもった小さな悲鳴が通り抜ける。
それらは己が受けた苦痛を共有することで一つの個として世界に顕現し、命ある者を憎悪する。
八級死霊術
特別な鍛錬を積んだ者以外には術者であっても注視しなければ姿を見ることすら叶わないそれは、全十二からなる魔術等級の内、下から数えたほうが早いとされていたとしても、決して軽視出来る物ではない。
「命令する、日が暮れると共に私の元へ、それまでは見つからぬように待機せよ」
空気を僅かに揺らがせ了承の意を示したゴースト達は、スッと地の中へ消えていった。
「さてさて、覗き見は趣味が悪いんじゃないの~?」
術者は声を発する、その緋色の髪をなびかせながら。
その声に反応して、一人の青年が暗がりへと足を踏み入れた。
「お前が最近この辺りを騒がせている殺人鬼で間違いなさそうだな」
鋭く尖った瞳、色の白く線の細い体を焦げ茶色のローブで隠して堂々と立つその姿には、ほんの小さな怯え油断も見て取れず、少女は直ちに認識を改める。
「ふうん……で、私に何か用?」
少女は後ろ手に隠した指で空中に魔法陣を描き、臨戦態勢を整えながら話す。
だが青年は気付いているのかいないのか、一切気にすることなく目前まで歩いていき、耳元で話しかける。
「なに、大した事はない、要件はたったの一つだ……―――」
青年は、驚愕に目を見開く少女の姿を満足気に笑い、静かに立ち去る。
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