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それは脅しではなかった。
相手からは、時間がない、早く帰りたいって心境がひしひしと伝わってくる。
通常なら、それを利用して相手を追い込むだろう。
だけど、シンバの心は全く崩れていなかった。
こんな奴……初めてかもしれない。
時間がないからこそ、お前らの相手をしている“暇”なんてない。
そう言われている気がした。
心に余裕はないが、ただ目の前にいる相手は、いつでもどうにでも出来る。
時間を稼ぎ、怒りを増幅させて自分を見失わせて、焦ったところで生まれる隙をつくか?
そうだ。普通ならそうするだろう。
でも、私にはその作戦を実行した先の結果が見えた。
きっと、シンバは隙を作らない。
どうする? 落ち着け。
まだ戦闘は始まったばかりだろう。
「いいんだな?」
覇気の籠った声は、少なくとも私を威嚇するのには十分な効果だ。
様々な考えが頭を駆け巡る中。
何よりも先に動いたのは。
空だった。
状況を察してか。
それとも人間の本能だろうか?
子供とは思えない異常な行動。
空は一瞬にして、シンバとの距離を詰めた。
シンバも、そのタイミングの良さに困惑する。
まさに、絶望に対して絶望をぶつけて打ち返したような感覚。
「なっ」
シンバは慌てて防御の構えをとろうとした。
異常なのは、空が本能的に発揮した切り札だ。
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