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「え?」
彼女は座ったまま小首を傾げ、俺を黙って見返してくる。
何故そんなことを言うのかわからないと彼女の瞳が語っていた。
古い駅の待合室には蝉の声が鳴り響き、二人の沈黙を破るかのように騒いでいる。
じっとりとした暑さに俺の頬を汗が伝った。そんな俺とは対照的に彼女は汗一つかいていない。俺には彼女の周囲の気温が下がっているように見えた。
そんなはずはないのに。
俺は暑さとは別の理由で渇いた喉を唾を飲み込んで潤し、もう一度はっきりと告げた。
「迷惑だ。やめてくれ」
彼女はそれを聞いて艶然と微笑む。
「誰かにそう言えって言われたの?誰に言われたの?私があなたに代わって迷惑ですってお断りしてくるわ」
「違う!迷惑なのはお前だ!もうやめてくれ!」
俺は彼女が持っていた手帳をつかみ地面に叩きつけた。
そこには俺の行動がびっしりと細かく書き込まれていた。
彼女は俺のストーカーだった。
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