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お兄ちゃんはアイスを私の手にそっと渡してくれた。
食べないの?
やはり優しい微笑みを浮かべて頷くお兄ちゃん。
沈みゆく太陽。西の方角で染まる夕焼けの空は、何かの終わりを意味していたのかもしれない。
お兄ちゃんに会ったのは、その日が最後だった。
視界に映し出される兄の姿。
優しい微笑み。
でも、あの頃の微笑みとは違っていた。
見た目は同じかもしれない。
でも、その裏には苦しさが隠れていた。
渦巻く黒い影。憎しみなのか、ただの邪悪なのか、それとも何かに心を奪われたのか。
何なのかはわからない。
でも、20年近い別れにも関わらず、私にはその黒い存在があることがすぐにわかった。
心を蝕まれた兄は、昔とは別人のように違うのかもしれない。
「リリル!」
遠くから聞こえてくる声。
「リリル!起きろよ!」
視界が徐々に明るくなっていく。
「リリル!起きろって」
「アダム?」
反射的に身を起こす。
目の前には不安そうな表情をしたアダムが、身を屈めていた。
「大丈夫か?だいぶうなされていたみたいだったぞ」
そうだ。今は戦争中か。
「うん。大丈夫ー」
アダムはすくっと立ち上がって、片手でターバンを押さえながら言った。
「それならいいんだけど……そろそろ玉座の間で会議を始めるぞ。もうシンバさんも来てる。早く来いよ」
「わかったー。先に行ってて」
アダムは心配そうな顔をして、一度振り返ってから部屋を出て行った。
夢を見ていたのか。
お兄ちゃんの……。
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