539人が本棚に入れています
本棚に追加
─────渋谷和也─────
その日は雨が降っていた。
大粒じゃなくて、細かく降る嫌な雨だ。
外の空気は生暖かくて、じめじめとしている。
俺はバーナードと一緒に高級車で、港へ向かっている最中だった。
「今夜21時。ステーション6の四番から出る大型客船が、ピノキオクエストのある“子供が自由に暮らせる国”へ行く。航海は僅か4時間。全ての客室が特等だそうだ」
バーナードはそう言いながら、懐から封筒を取り出して渡してくる。
中には、子供が自由に暮らせる国行きと書かれた乗船券が入っていた。
まるで、ミュージシャンのライブのような細長い一枚の紙切れ。
これに800万の価値が……。
間違えて破いたりしたら、再発行とかしてくれるのだろうか?
「ありがとうございます」
そんなくだらないことを考えつつ、俺は封筒を大事にポケットにしまった。
バーナードの家を出てから、30分は車に乗っている。
その間に車は二度、区域を分けるためのゲートを通った。
この町、広すぎるだろ。
三度目、ゲートを通ると、これまでとは違って、車の外は広々としている開けた景色が映し出される。
この先に区域を分けるための壁はない。
海だった。
「着いたぞ。和也くん。」
しばらく海沿いに進むと、車はゆっくりと停車する。
車を降りると、海の上には大きな船が浮かんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!