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自分の体が上手く動かない。
例え、今から追ったとしても間に合わないだろう。
優君は既に空の彼方へと消えていってしまった。
俺は手の平で触れていた砂を、僅かに動く指で掴むと強く握り締めた。
くそう……。
勝負にすらならなかった。
優君は全てを見通していたかのように、あっさりと対処してきた。
寧ろ、殺されなかったことが信じられないくらいだ。
生きていることがおかしい。
どんどん霞む視界。脳を強く揺さぶられたせいか、その場で嘔吐する。
もしかしたら、自分の力に溺れていたのかもしれない。
あの力を使えば、優君にも勝てるんじゃないかと。
優君はまだまだ遠い距離にいた。
あの頃の優君はもういない。
戻らない過去。
絆が結ばれることは二度とない。
心を繋ぐことはもう不可能だろう。
優君が新撰組に居たのは偽りだったのだから。
「光刀……」
『生きていて、喜ぶべきだと思うぞ』
「……」
生きるって何なのかな?
『私にはわからない。仮に人間の感情は理解できたとしても、人間じゃないのだから』
遠くなる光刀の声。
波の音が妙に心地よくて、俺はそのまま意識を手放した。
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