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「杏奈!」
黒い力に蝕まれ、眠っていたはずの杏奈が何故か目の前にいる。
信じられないと思う気持ちが優先し、今見ている光景が自分の中で整理できなかった。
杏奈の体には、黒い力が付着したままだ。
とてもじゃないが立っていることすら辛いはずなのに、杏奈はしっかりと立っている。
これまでの全てを凌駕するように。
杏奈の雰囲気は、それほどまで堂々としていた。
「大丈夫」
ただ一言。
両手を広げて、静かに佇む。
同時に、杏奈が能力を発動させた。
さざ波のように広がる透明な水。
その水には、仁への想いが込められているようだった。
ふと思い出す。
杏奈のプレイヤーネームは水神。
黒く染まった心を洗い流すような期待が込められた水。
死神の視線は杏奈に真っ直ぐ向けられた。
構えられる鎌。
杏奈は動じる気配はない。
「杏奈! 逃げろ!」
「大丈夫」
「こいつは仁じゃない!」
「大丈夫」
部分的に痙攣しているのを無理矢理抑え込み、俺は立ち上がることを試みた。
死神の持つ鎌が、ゆっくりと振られる。
迷いは一切なく、殺意のみが杏奈に向けられていた。
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