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「和也。しっかりしろ」
仁の声に、俺はハッとした。
瞬きをして、改めて下を見ると、血で染まっていたはずの芝生が元に戻っている。
いや……初めから何もなかったかのように、他の芝生と何ら変わりはなかった。
もちろん、美沙の生首も転がっていない。
仁は俺の肩を軽く叩いてから、冷静な様子で口を開いた。
「幻覚だ」
「何でわかったんだ?」
「最初に出された質問だよ。正確に覚えているか?」
すぐに思い出せない俺に、心の中で光刀が助け船を出してくれた。
『【覚悟】本当にこの先に進みますか、だ』
俺は、それを声に出して復唱した。
仁は一度頷いてから、説明を始める。
「覚悟って言葉は、迷いを脱して真理を悟るって意味なんだ。俺は、その時点で、何か騙し討ちのようなことが起こるなって想定した。あえて【】までついてたしな。それに、参加したプレイヤーを即殺すようなシステムは多分ないよ。だから、運営も苦労してるんだしな」
淡々と話しながら、仁は足を踏み出した。
「でも、これではっきりしたな。今までのクエストとは何かが違うって。挑んだプレイヤーを本気で潰す気だ」
仁の背中は、やっぱり頼りになる。
俺の踏み出した一歩より、遥かに深みがあった。
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