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咄嗟に門番が緊張した面持ちに変わり、ほぼ同時に敬礼をする。
「こ、これは! アールグレイさま!」
どこから現れたのか、全くわからなかった。
天草総長が持っているような、移動系の能力なのだろうか?
その人物の風格と門番の反応からして、この国で地位が高いことがわかる。
「ご苦労」
そいつは、抑揚ない冷たい声で門番にそう言った。
肩まで伸びた灰色の髪が、さらりと揺れる。
吸い込まれそうなほど大きな碧眼が、こっちを見ていた。
肌は雪のように白く、中性的な容貌だ。
黒いロングコートの胸部につけられた勲章らしき金色の豪華なバッジは、他の者とは違うことを誇示しているようだった。
門番が、アールグレイと呼んだ男にあたふたとしながら声をかける。
「この者たちは、我が国に献上品を進呈するために訪れてきた異国の者です」
「知っている。“聞いていた”からな」
アールグレイの顔つきは、声を出しても感情はおろか筋肉が動かないと言ってもいいほど変わらない。
不気味だった。
綺麗な顔立ちながら、その奥に潜む何か。
泥々とした黒い沼みたいな、底知れぬ闇が潜んでいる気がする。
殺戮者……。
この世界ではそういう奴らを沢山見てきたが、どこか違っているような気もした。
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