クリアと犠牲の意味

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「どうしたんですか! 副長!」 すぐに天草総長が、珍しく怒声を放つ。 土方さんは、地に膝をつける沖田を弱気な眼差しで見下ろしながらこう話した。 「お前は……本当のお前はこんなことをする奴じゃねえ」 沖田もうっすらと目を上げて、首を動かして後ろを見上げる。 「俺らと一緒に居た時間に嘘はねえはずだ。俺らと笑いあっていたあの笑顔に嘘はないはずだ」 信じられない光景だった。 土方さんの目には、うっすらと涙が浮かび上がっている。 何度も見てきた鬼の形相は、そこにはなかった。 「お前は隊のために本気で働いていたはずだ。そして、俺たちとも本気で過ごしてきたはずだ。どうしても切れない重たい鎖があって、そうするしかなかったんだろ? お前がそこに居る渋谷和也にした行動も、全てが裏切りであったはずがない」 違う。沖田は、別の人間と言ってもいいほど。 冷酷で、そして残酷な人間だ。 土方さんの言っているような人間じゃない。 そんな土方さんの言葉に、天草総長が否定するように大きく手を振って口を開いた。 「副長! 裏切り者を目の前にしても、情を優先するというんですか!」 その時、跪いていた沖田と、土方さんとの隙間に、黒い影のようなものが目にも追えないほどの速さで横切った。
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