クリアと犠牲の意味

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二人の動きを追うと、上空に浮かぶ巨大な生物よりも高く跳び、姿を消した。 おそらく背中にでも乗ったのだろう。 天草総長は、瞬間移動ならば追うことができるはずなのに動かずにその光景を見守っていた。 黒い鍵……。 優くんがなぜ持っているのか? そんな理由はどうでもよかった。 ただ、本当の優くんの姿を見たことが深く心にのしかかる。 巨大生物が翼を大きく羽ばたかせると風が吹き荒れ、そしてあっという間に姿が見えなくなってしまった。 空が見えるようになると、視界には再びたくさんの星が映し出される。 あの生物だって、神谷の息子なんだよな。 優くんとアニーは、あれ呼ばわりしていたが、目の前でその言葉を聞いていた神谷が何だか気の毒に思えた。 そんな中、しばらく漂った静寂を神谷が変わらぬ口調で話し始めた。 「さて……。そろそろ私の役目を果たさなければいけませんね」 「役目……ですか?」 そう訊き返したのは、怪我をした土方さんを支える天草総長だった。 「私が息子にできることは、これくらいしかありませんから」 呟くように言う神谷の表情は、何だか悲しそうだった。
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