第1章

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第1章

 もしこの蒸し暑い季節が、何らかの仕組みによって秋と同じように過ごしやすくなってしまったら。  いつも考えるんだけどさ、それが本当になったら、結局のところ、夏って何だったんだろうって虚しくなりそうだな。  色濃い影を眦に落とし、ふと青年はその頤を引いた。  色の白さが際立つ、滑らかな頬。  手袋を嵌めたまま、切符を扱う指先の異なる白。  濃紺の制服の涼やかさ。  静かな声。  私は、その表情と角度を見上げるのが好きで好きで好きで、じっとその顔を眺める。  永遠にその表情を脳裏に記憶しておきたかったから。
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