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それを聞いた佐久間は、オリーブをつまんで口に放り込みながら言った。
「じゃあプライベートで何か問題起こしたとか?それこそ元カノがストーカー化とか」
「そんな元カノはいない」
「んー……じゃあもう純粋なストーカー」
半ば冗談で言ったのだろう。
佐久間はへらっと締まりのない顔で笑っていた。
「そんなわけないだろ」
すぐに否定すると、佐久間はまだたっぷりと残っている俺のグラスにワインを注ぎ足しながら言う。
「わからないですよ〜?どういうきっかけでストーカー化するかわからないじゃないですか。好意を寄せるタイプじゃなくて、逆恨みって線もあるし」
「逆恨みって……」
ーーー逆恨み?
ふと、先ほど見た由利の顔が思い浮かぶ。
まるで俺が全て悪いと言わんばかりのあの顔。
敵意だけが浮かぶ目。
ーーーまさか……
ワイングラスを持っていた手がかすかに震える。
変な汗がじわりと浮かんできて、背中にぐっしょりと湿ったシャツが張り付いてきた。
ーーーそんなわけない
あいつが俺の職場を知ってるわけがないんだから
何も言えなくなって脂汗を流す俺に気がついたのか、佐久間は心配そうに顔を覗き込んできた。
「竹原さん、本当に大丈夫ですか?調子悪いんだったら、今日は早めにお開きにします?」
「あ、うん……そうだな。ごめん……」
「いいんですって!むしろ今日は付き合ってくれてありがとうございました。明日1日ゆっくり休んで回復してください」
「うん……そうする」
ーーーいや、まだ決まったわけじゃない……
自分に強く言い聞かせてはみたものの、やっぱりどこか自分を騙しきれない。
どろりとした不安が、グラスの底に沈むワインの澱のように残っている。
佐久間と別れて家路についても、このなんとも形容しがたい不安は消えてくれなかった。
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