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うだるような暑さの中、私は本を片手に駅の待合室に身を埋めていた。
左腕に纏わりつく腕時計が"その時"を無言で告げる。
七時二十二分。
"彼"は決まってこの時間にやって来ることを、私は知っていた。
現れた一つの影。
本に落としていた視線をそれとなくあげて、私は彼を見た。
「おはよ。今日も暑いな」
「おはよう。ホントよね」
そこでタイミングを見計らったかのように、遮断機が気怠そうに声を上げるのが聞こえた。
「今日は少し早いな…」
ほどなくして古びた車体がホームに向かってくるのが横目で確認できた。
「ねぇ」
身を翻そうとした彼の背中に、私は言葉を投げかける。
『好き』
電車の汽笛に掻き消された──否、掻き消させた声は、無残にも室内に散ってゆく。
「ごめん、何か言った?」
「ううん、何でもない」
いつかキミに、届きますように──
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