#05 * 雪将

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動物園を出る時、彼女は耳栓装備を一新して、 どうやら僕の声は一切届かないらしかったので、 最寄り駅まで二人で黙って手をつないでいた。 住宅街に入ると、歌子さんはまた装備をかえて、 僕の顔を覗き込みながら、隣を歩いた。 <ひさびさに たくさんあるいたから すこし つかれちゃった> 「そうだよね、お疲れ様。時間とか大丈夫?夜ご飯に間に合う?」 <だいじょうぶ うち ばんごはん おそめ だから> 「そっか、良かった。今日はありがとう!」 <ううん こちらこそ ちこく しちゃって ごめんね> 「気にしない、気にしない!」 <あ まね しないで> 「すみません。」 <じょうだんだよ> 「あ、でも、もうメールできるから、心配ないね!」 <めあど そのうち かえてね> 「すみません。」  ふふふ、と少し笑って、彼女は足を止めた。 もう、着いてしまったのか……なんて、あっという間なんだ。 <おくってくれて ありがとう> 「こちらこそ、今日はありがとう。」 <じゃあ……> 「……待って!」 <?> 「誕生日……歌子さんの誕生日、なんだけど……」 <うん> 「僕の家で、お祝いしてもいいかな。」 <……> 「春兄も一緒に。」 <うん うれしい ありがとう> 「また連絡するよ。メールする。」 <うん じゃあね> 手の指をいっぱいに開いて、大きく手を振る彼女の姿が、 あんまりにも愛おしくて、 色んな気持ちが溢れて、苦しくて、 僕はただただ見送ることしか、できなかったんだ……
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