#05 * 雪将

3/21
前へ
/21ページ
次へ
「どうせ春兄には分からないよ。僕の気持ちなんてさ……」 突き放すつもりで放った言葉が、拗ねたように聞こえたのか、 本人はむしろ身を乗り出して、本格的に聞く体制に入っている。 「ああ、分からない。だから言ってみろ、と言ってるんだよ。」 「……実は今日、恋人が出来たんだけど……」 「お前に?彼女? そいつはとんだ朗報じゃないか!」 「事はそう単純なものではなくて、その……色々あって。」 「友達すらいなかったお前に、いきなり彼女ができたなんて、  むしろ他の奴より、一足先をいってるんじゃないか。」 「それは確かにそうなんだけど、そうじゃなくて。」 「なんで?嬉しくないのか?」 「それは物凄く嬉しいんだけど、そうじゃなくて。」 「もう……お前、何がそんなに不満なんだよ。」 「別に不満なんてないよ。彼女に不満なんてあるわけがない。」 「なら、何の問題もないな。」 「問題は、ある……これからの事とか……その……色々あって。」 「さっきから、色々色々っていうけど、何があるんだよ。」 「それは……」 それは勿論、彼女の聴覚の事についての不安だけど、 それを春兄に言って良いものなのだろうか。 歌子さんは、それで嫌な思いをしないだろうか……
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加