#05 * 雪将

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7月29日、晩ーー 「財布よし、ハンカチよし、ティッシュよし!」 「小学生の遠足か。本当、張り切ってんな、雪。」 「春兄!ちょうど良かった。実はお願いがあるんだけど……」 「おぉ。何でも言ってみなさい。」 「春兄の洋服を貸してください。」 「……はぁ?」 ご存知の通り(いや、これまたご存知ではないかもしれないが)、 僕はお洒落という分野に滅法うとい。 そもそも興味がない事が主なる原因で、 恋人との初デートに着て行ける私服なんて、 当然持ち合わせていなかった。 歌子さんの私服姿はまだ見たことないけど、 絶対かわいいに決まっている。 「お願い、春兄。何でもいいから、僕が着られそうなやつを……」 「ったく、しょうがないな。セットで見繕ってやるよ。」 「助かります……」 これであとは、 「財布よし、ハンカチよし、ティッシュよし!」 「何回同じ事を繰り返してんだよ。ほら、これ着てけ。」 「えっ……これはちょっと、お洒落すぎない?」 「初デートなんだから、お洒落すぎるってことはないだろ。」 「いやでも、ほら、もうちょっと自然な感じの……」 「じゃあ、これとか?」 「もうちょっと、清潔感のあるシンプルな雰囲気で……」 「お前、それ遠回しに、俺の格好が清潔感ないって言ってないか。」 「そうじゃないけど、何か布が多いというか……これ、どう着れば……」 「それはストール。着るんじゃなくて、首に巻くものだよ。」 「うっ。やっぱりもう少し簡潔な服装の方が……」 「んー……あー……んー……」
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