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山の木々をかき分けるように続く、草にうもれた鉄路。その先に、古びた駅舎。興味をひかれて駅舎の中をのぞくと、意外にも人がいて驚いた。
眼鏡をかけたセーラー服の少女が、窓辺で本を開いている。思わずこんな所で何をしているのかときくと、彼女は『何をバカな事を聞くんだ』と言いたげな、あきれた口調でこういった。
A「見れば分かるでしょ。電車を待ってるの」
B「……ここはとっくに廃線になってますよ」
A「知ってるわ。来ない人を待ってちゃいけないの?」
来ない人って、誰だろう。まだこの鉄道が生きていたころ、ここで会っていた初恋の誰か?
僕は、顔も名前も知らない誰かさんに嫉妬した。そう、僕は一目でその少女に恋をしたみたいだった。
僕は黙って彼女の隣に腰を下ろした。
B「僕も一緒に電車を待ちますよ」
A「バカじゃないの?」
B「よく言われます」
来ない電車を待つ間、彼女が誰を待っているのか話してくれるといいな、と思いながら。
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