第1章

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 山の木々をかき分けるように続く、草にうもれた鉄路。その先に、古びた駅舎。興味をひかれて駅舎の中をのぞくと、意外にも人がいて驚いた。  眼鏡をかけたセーラー服の少女が、窓辺で本を開いている。思わずこんな所で何をしているのかときくと、彼女は『何をバカな事を聞くんだ』と言いたげな、あきれた口調でこういった。 A「見れば分かるでしょ。電車を待ってるの」 B「……ここはとっくに廃線になってますよ」 A「知ってるわ。来ない人を待ってちゃいけないの?」  来ない人って、誰だろう。まだこの鉄道が生きていたころ、ここで会っていた初恋の誰か? 僕は、顔も名前も知らない誰かさんに嫉妬した。そう、僕は一目でその少女に恋をしたみたいだった。 僕は黙って彼女の隣に腰を下ろした。 B「僕も一緒に電車を待ちますよ」 A「バカじゃないの?」 B「よく言われます」  来ない電車を待つ間、彼女が誰を待っているのか話してくれるといいな、と思いながら。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加