冬のカポエラ

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「伊狩さんは別に関係ないだろ。別にサークルの活動としてやらなくちゃならない訳でもないし。それにサークルの主旨ともそんなにどう仕様もなくかけ離れているとも思えないけどなあ」  健太の反論に、光一は言葉を出さずにチラリと横目で風子を見た。確かに部長の名前を出した事には大した意味がないなと自分でも思っていた。ただ何か反対したい気分だった。  風子はどう思っているのか、そんな事を一瞬考えてからまた光一は健太を正面に捉えた。 「だけど、なんでカポエラなんだよ。カポエイラ? どっちだっていいか。そんなものやらなくちゃいけないんだよ」 「さっきも言っただろ。姉貴がさ、どこで覚えてきたのか知らないけどカポエイラに妙にハマっちゃってさ。僕に教え込もうとしてさ。それから以前から僕らの話をしていたのを思い出して『じゃあ、連れて来なさいよ』って、なったんだよ」 「…………」  どうもよく分からない。この男の姉の話は何度か聞いた事はあったけど、どういう人なんだろう? 光一は首を捻る。 「別に、お前一人で教えてもらえばいいんじゃないの?」 「いや、さあ……なあ、頼むよ。一人じゃ心細いというか……いや、別にそんな怖いという事じゃないよ。そんな悪い話じゃないと思うんだよ。ねえ、高井さん?」  またもや困ったような表情を作りながら苦笑いをして、健太は風子の方を向いた。そして手を合わせた。 「さっきも言ったけど。ダイエットにも良いと思うよ。姉貴に会って、その体型を見てみてよ。すごいスマートなんだよ。ね、お願いだよ」  さほど厚くはないレンズの奥の瞳は健太の視線を捉えると、慌てたように少し目線を下に下げて 「そ、そうね。獅子村君がそこまで言うなら……」  最後まで言葉を出してはいないが、その態度はO.K.である事を表していた。これで流れは変わった。カポエイラという馴染みのないものを出したり恐姉家(?)ぶりを見せてボケる健太に光一がツッコミを入れているような構図だったが、風子を味方にした事によって形勢は一気に有利となった。 「……わ、分かったよ。それじゃあ、こんどの土曜日か。運動し易いカッコで行けばいいんだな」  いち早く敗戦を悟った光一はあっさりと健太の話を受け入れた。そしてその週の土曜日の午後から近くにある大きな公園に集まる事となった。  
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