6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
ああ、暗い。
月のない夜だった。
山の奥にある、深い沼の底。
腰から下が水底の泥に埋もれて、
上半身はゆらゆらと揺れていた。
揺れるたびに少しずつ肉がはがれ、
泥水に溶けてゆく。
指先から、はらり、はらりと爪が剥がれる。
コロサレタ、記憶がわずかにある。
埋(うず)もれた足に絡まるロープは、
傍らのブロックにつながっている。
もうすぐそのロープからも、
ずるりと足は抜けるだろう。
なにかがこの身をついばむ。
ぬるく、いのちにあふれたこの沼。
身体はどんどん溶けて、泥水自体になる。
――どうする――
声が聞こえる。
コラシメタイ、と答える。
魂は憎しみを感じない。
ただ「必要なこと」として、
こらしめなければ、と感じていた。
そよ、と風が水面を渡る。
最初のコメントを投稿しよう!