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そして、数日後、また俺は運命の出会いを果たす。
偶然また街で「マツシタサヤ」に出会うことができたのだ。
「あ、来栖くん、もう具合は大丈夫なの?」
「ああ、心配ない。」
「ふふっ、相変わらず、へんなのー。」
それから、俺達は時々、会うようになった。
「ねえ、来栖君ってどこに住んでるの?」
そう問われて俺は返答に困った。
「河川敷のベンチ。」
そう答えると、サヤはポカンとした。
「またまたぁ、真面目な振りしてサヤをからかってるんだねえ?」
そう言って信じてもらえなかった。
「今日ね、うち、親が留守なんだ。一人で女の子が留守番って物騒でしょ?来栖君、今日、サヤの用心棒になってくんない?」
サヤがそう言いながら俺の手をとり、上目遣いに見てきた。
もう俺の心臓は爆発寸前だった。
「あ、ああ。良いのか?」
それは、額面通りに取って良いのだろうか。
サヤは小さな顔を俺に近づけると、息がかかるほどの距離で耳元に囁いた。
「いいよ。」
俺は天にも昇る気持ちだった。
死んでもいい!
いや、今死んでたまるかよ。
俺はサヤの家に招かれた。
サヤは俺に手料理をご馳走してくれた。
あの戦場で戦っていた俺に、今こんな幸せな時間が訪れるとは夢にも思っていなかった。
「お風呂、沸いてるよ。」
そう言うと、俺にサヤが風呂を勧めてきた。
俺は遠慮なく、いただく。
風呂など、どれくらいぶりだろうか。俺が風呂に入っていると、脱衣場のあたりに人の気配がした。
後ろを振り向いた。
サヤ?
嘘だろう?
まさか、入ってくるつもりじゃあ。
「来栖君、サヤも入っていい?」
俺は頭に血が上った。
そして、違う所にも血が上った。恥ずかしいほど充血している俺自身。
もうダメだ。我慢できない。
風呂のドアが開けられる。
「サヤ!」
俺は、サヤを抱きしめようと走った。
すると、サヤは驚愕の表情を浮かべ叫んだ。
「キャア、ゴキブリっ!」
スローモーションのように、巨大なスリッパが俺に向かって振り下ろされた。
俺の体のいたる所から内臓が飛び出す。
「残念じゃったな。時間切れじゃ。」
神様、そんな殺生な。
俺はあと少しというところで、元のゴキブリの姿に戻ってしまったのだった。
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