プロローグ

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当時も何人かの女性スタッフとは親しく話させてもらっていたので、つい親し気な口調になってしまった。 けれど、その時はそのことよりも焼きたてのパンのことの方が気になっていた。 くしくも、あの時は四月の始まり。 毎月五~六種類のパンが新作として、その月限定で発売される。 そのことも重なって、私は身を乗り出すように尋ねてしまっていた。 「よくわかりましたね? 今月限定のアスパラとベーコンのフォカッチャです」 予想通り、まだ食べたことのない新作だ。 「じゃあ、それ。それください!」 「ありがとうございます」 彼はそう言うと天板から直接私のトレイに新作のパンを乗せてくれた。 その時、周りの客が私と彼のやり取りとちらちらと覗き見ていたのを覚えている。 誰だって、新作のパンとあれば聞き耳を立てたくなるはずだ。 だからと言って、私の後に続く人はなく、みんな彼が残りのパンを商品棚に並べるのを大人しく待っていた。
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