5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
ポタリ、ポタリと鳴る音は、今はピチャ、ピチャ、と水が撥ねるような音に変わった。
眠い。もっと寝ていたい。
雨漏りなんて今まで無かったのに。
雨が降っているからだろうか?夏も終わっていないのに、なんだか寒い。
そう言えばあの時も、雨が降っていた。
――月曜日――
社会に出てから役に立つとも思えない、時間を浪費するだけの授業。
頭から決めつけルールを押し付けるだけの先生。
どっちが優れているかを様子見合って、見栄を張り合う友達。
くだらないと周りを見下して、自分は特別だと思い込もうとするくだらない僕。
くだらない日常は、僕がくだらない存在だから。
傘を差しながら歩いていると、雨に遮られる街の中でぼんやりと光る自販機が見えた。
濡れた街とは違って乾いた僕に丁度いい、なんてクサい事を思いながら財布を取り出し、お金を入れて缶ジュースのボタンを押す。
その場で一口飲んでいると、後ろから声をかけられた。
「私も飲みたいな」
じめじめとした空気の中、風が吹いて風鈴が鳴ったような、涼やかさを感じさせる声だった。
黒い傘、黒い長髪、黒い服、絹糸のように真っ白な肌をした女性。
黒と白の対比が鮮烈に映った。
僕は一目で魅了された。
「あ…どうぞ」
自販機が使えるよう半歩ずれると、彼女はその白い指を伸ばし、僕の指をすり抜けるように缶を抜き取って、そのまま赤い唇をつけた。
「あ、あ…」
何も話せなかった。
「ありがとう」
彼女はそう言って缶を僕の手に戻し、黒い背中を向けて去って行った。
黒い影が雨に消えて行くのを、見ている事しか出来なかった。
少しでも長く彼女を感じていたくて、僕は彼女に返して貰ったジュースを飲み込んだ。
ピチャ、ピチャ、と水が撥ねるような音は、今はポチャ、ポチャ、と水を打つような音に変わった。
容器に大分溜まっているようだ。取り替えなくては。
でも、雨漏りがしている事さえ知らなかったのに、いつの間に容器を置いたのだろう。
寒いから毛布を掛けたいのに身体が動かない。
そう、あの時も僕は、身動きが取れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!