黒と白と、赤

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ポタリ、ポタリと鳴る音は、今はピチャ、ピチャ、と水が撥ねるような音に変わった。 眠い。もっと寝ていたい。 雨漏りなんて今まで無かったのに。 雨が降っているからだろうか?夏も終わっていないのに、なんだか寒い。 そう言えばあの時も、雨が降っていた。 ――月曜日―― 社会に出てから役に立つとも思えない、時間を浪費するだけの授業。 頭から決めつけルールを押し付けるだけの先生。 どっちが優れているかを様子見合って、見栄を張り合う友達。 くだらないと周りを見下して、自分は特別だと思い込もうとするくだらない僕。 くだらない日常は、僕がくだらない存在だから。 傘を差しながら歩いていると、雨に遮られる街の中でぼんやりと光る自販機が見えた。 濡れた街とは違って乾いた僕に丁度いい、なんてクサい事を思いながら財布を取り出し、お金を入れて缶ジュースのボタンを押す。 その場で一口飲んでいると、後ろから声をかけられた。 「私も飲みたいな」 じめじめとした空気の中、風が吹いて風鈴が鳴ったような、涼やかさを感じさせる声だった。 黒い傘、黒い長髪、黒い服、絹糸のように真っ白な肌をした女性。 黒と白の対比が鮮烈に映った。 僕は一目で魅了された。 「あ…どうぞ」 自販機が使えるよう半歩ずれると、彼女はその白い指を伸ばし、僕の指をすり抜けるように缶を抜き取って、そのまま赤い唇をつけた。 「あ、あ…」 何も話せなかった。 「ありがとう」 彼女はそう言って缶を僕の手に戻し、黒い背中を向けて去って行った。 黒い影が雨に消えて行くのを、見ている事しか出来なかった。 少しでも長く彼女を感じていたくて、僕は彼女に返して貰ったジュースを飲み込んだ。 ピチャ、ピチャ、と水が撥ねるような音は、今はポチャ、ポチャ、と水を打つような音に変わった。 容器に大分溜まっているようだ。取り替えなくては。 でも、雨漏りがしている事さえ知らなかったのに、いつの間に容器を置いたのだろう。 寒いから毛布を掛けたいのに身体が動かない。 そう、あの時も僕は、身動きが取れなかった。
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