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――金曜日――
晴れた空を恨めしそうに眺めていた。
きっと彼女は来ないだろう。
それでもずっと待っていた。
――土曜日――
また晴れた。
雨を待つが降りそうもない。
帰ろうかと迷いながらジュースを買って取り出そうとすると、いきなり腕を掴まれた。
白く冷たい手は彼女のものだ。
日傘で顔を隠しているが、その黒い姿は彼女のものだ。
いったいいつの間に、こんなに近づいていたのだろう。
「晴れの日は渇くの」
日傘を少し上げて見せる唇の、いつもより濃い赤に魅入られた。
「あの…今、取り…」
言葉を待たずに彼女は、僕の腕を引いて歩き出した。
僕は彼女と二人で歩いている。
こんなに近くに彼女がいるなんて、頭がもやもやして、現実なのか夢なのか。
彼女の家に連れ込まれて、やっぱり夢なのだと思った。
ひらひらと白い蝶が飛んだと思ったら、彼女が手をかざして振るしぐさだった。
「どうしたの?夢でも見ているの?」
現実だった。でも身体の感覚はなかった。
何かを答えた気がしたが、自分で何を言ったか分からなかった。
椅子に座らされ、出された真っ赤なジュースを飲んだ。
もう水の音は聞こえない。
目を覚ますと、何も着ていなかった。
彼女の肌のように、僕の肌も白く涼しげに見えた。
寒くて手で摩ろうとするが、腕が動かない。
足も動かない。
あの時とは違う、操り糸が絡まったのではなく身体を直接縛られている。
そうだ。僕は全裸で椅子に座り、縛られているのだ。
反射的に前を隠そうとするが、後ろに回された手が前に動かせない。
左右の足は、椅子の左右の脚にそれぞれ括り付けられている。
一本一本は細い糸でぐるぐると、反物に見えるまで執拗に縛られている。
なんなんだこれは?
酷く怠くて声も出せない。
右には浴槽、左は扉。
浴室のようだ。
広い。うちの2倍はありそうだ。
前の壁際に、取っ手のついた大きな空のボトルが置いてある。
正面が壁という事は、後ろには蛇口と鏡があるはずだ。
椅子を倒して鏡を割り、その破片で糸を切って、なんてヒーロー的な事を考えてみるが、現実には無理だし、なにより身体が重くて、例え縛られていなくても動けなそうだ。
思考も視界もぼんやりと滲み、意識を失いかけた時、脱衣所の扉が開いた。
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