黒と白と、赤

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彼女が頭を出して顔を見せ、そして僕を観察している。 黒い髪がさらさらと流れて、床についてしまいそうだ。 彼女に裸を見られてしまった。 白い反物がひらりと落ちたと見えたのは、彼女が足を床につけるしぐさだった。 彼女が浴室に入ると、僕は眩しくて目を細める。 違う。彼女の一糸まとわぬ素肌があまりに白くて、輝いて見えたのだ。 霞む目をはっきりさせようと目を見開いた。 彼女は反応してしまった僕を見て小さく笑うと、僕の胸に手を当て 「もうすぐだね」と言った。 夏の日差しを当てられたようで、寒さに震える僕には有難かった。 そのまま僕に両腕を廻して身を寄せて 耳元で「すごい…」と呟いて身を引いたその手には、真っ赤なボトルが握られていた。 「一本溜まったのにまだ意識があるなんて、君が初めてだよ」 そう言って真っ赤なボトルを置いて空のボトルを取り上げると、また僕を抱きしめた。 「これは、君の体温なんだよ」 また離れる彼女の手にはいつの間にか手鏡が握られ、背後の鏡と合わせて僕の後姿を見せてくれる。 合わせ鏡の中の腕には点滴のように管が通され、その管から一滴一滴、空のボトルに赤い雫が滴り落ちていた。 それが僕の腕と理解するまで、少し時間がかかった。 あのボトルの赤は、まさしく僕の体温だ。 体温が抜けて、僕は凍えたのだ。 理解した。そんな事よりももう一度、彼女の香りと感触が欲しい。 「………」 声が出なくて懇願が出来ない。 僕の気持ち、伝わってくれ。 手鏡を置いた彼女は、僕の真っ赤な体温が入ったボトルを高く掲げ、真っ黒な髪に注ぐ。 黒髪が、濡れて光って闇を深める。 黒から白へ、僕の赤が彼女の絹糸を辿って筋と雫を作り、彼女の形を際立たせる。 美しい。 黒と白と、赤。 これが彼女の本来の姿なのだ。 彼女と僕の体温がひとつになる事で、僕の体温も上昇した気がした。 彼女は僕に密着して、唇から体温を、僕の唇に移す。 少しでも長くこの感触を感じようと、僕は彼女から返して貰った自分の体温を飲み込んだ。
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