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庭の草木も少しずつ色を濃くし始めた春の終わり。
その日、非番だった沖田は最近気に入りの甘味処へ向かう為、四条の通りを歩いていた。
洛中の中でも四条河原近くは特に多くの人で賑わう。
店の多いその通りは八つ刻を前にあちらこちらから旨そうな匂いが漂い、元来美味しいもの好きのその青年はついとつられそうになる度にふるりと首を振りながら、目的の店を目指していた。
京に上ってまだ一年と少し。
普段見回りという隊務で市中を回る沖田だが、こうして一人気ままに町を歩くとまた心が躍った。
東の片田舎に住んでいた彼にとって、天子様のお膝元である京の町はそれだけ華やかで煌びやかな魅力を湛えていた。
京菓子もまたその一つだった。
長屋の軒先に並ぶ饅頭や棒手振りの皿に置かれた飴細工などを眺めつつ、のんびりと町を歩く。
この時ばかりは彼の肩から新選組の剣豪沖田の看板が降りる。
刀さえ握らなければ彼はにこにこと笑う、至極愛想のいい普通の青年だった。
四条小橋を渡り、木屋町を北に上ればすぐその目的地がある。
けれど橋の上には珍しく高瀬川を眺める一人の青年の姿があって。
あまりにじっと食い入るように見つめるその視線の先が気になった沖田はその後ろに立ち、彼の視線を追った。
「なにかいるんですか?」
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