第1章

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びしょびしょのまま、ほとんど放心状態で寺へと戻ると何やら騒がしい。 「どうしたんですか?」 「住職が近くの川で死んでたんだよ」 近所のおじさんは警察が来るからと、慌ただしそうに行ってしまった。 恐怖で体が固まった。 さっきの人魚だ…。 何故か僕は確信していた。 何故、住職なのかは分からなかったが、あの人魚の仕業に間違い。 しかし、そんなことを警察に言えるわけがない。 僕はただただ、無言で事の成り行きを見ていた。 後で聞いた話では、昔このあたりは宿場町として栄え、娯楽施設などもたくさんあったらしい。 しかし、そのため身売りする女性や、見世物小屋のようなもので働かされた人が多くいたという。 中でも寺の一角にあった「人魚が見れる見世物小屋」が人気だったようだ。 人魚とは名ばかりで、若い女の子が作り物の下半身を付けて、客の前に出てくる店だった。 あの人魚も、そんな店で無理矢理人魚にさせられた女の子だったのだろうか? 僕は、あの憎しみのこもった瞳を忘れることが出来ない。 あの人魚は寺の住職だけで怨みを晴らせたのだろうか?
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