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「え、あ、うん…。人魚…だね…」
勢いに押されて僕は答えた。
すると、人魚らしい彼女は嬉しそうに満面の笑みになった。
あまりにも綺麗で、僕は一瞬息を飲んだ。
「…良かった…」
ほっとしたような表情で小さく呟く。
「私、人魚に見えないから、いつもすごい叱られてしまって…」
人魚に見えないから怒られる?
良く分からなかったが、饒舌に話す彼女に口を挟む隙はなかった。
「私、全然ダメで…。いつもお客さんには笑われるし、旦那さんには怒られるし…。でも、やっとなれたんですね!」
色々突っ込みたいことはあったが、キラキラした彼女の瞳を見ると、何も言えなかった。
「長かった…本当に長かった…」
少し俯く彼女の表情は見えない。
「やっと…、やっとなれた…」
「なれた、って、君は…」
僕は言いかけて、ふと気付いた。
彼女の尾びれが少し透けている。
背中に一瞬冷たいものが走った。
「これで、やっと怨みを晴らせる日がきた…」
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