第1章

5/6
前へ
/6ページ
次へ
先ほどと変わらず可愛い顔だが、とても『可愛い』とは思えなかった。 憎しみをあらわに、きつく細められた瞳が僕を捉える。 電気が走ったように、身震いが止まらなかった。 口角だけ上げて、ニヤリと笑う人魚に僕は恐怖しか感じなかった。 殺される…! そう思った瞬間、バシャッと池の水が全身にかかった。 「!?」 反射的に腕で顔を庇う。 ヤバい…ヤバい…ヤバい…! 逃げないと…! しかし、顔を庇う腕を退かすことも、その場から立ち去ることも出来ず、気持ちだけが焦る。 足が震えて、嫌な汗が全身から噴き出す。 もはや、池の水なのか汗なのか分からないくらいびっしょりになり、気持ちが悪かった。 さっき見た人魚の表情 が、脳裏から離れない。 しばらく何も起きなかった。 それが数秒なのか数分なのかすら分からなかった。 もう、どうにでもなれ…! 意を決して、僕は腕を少しずらしてみた。 そこには、先ほどまでいた人魚は跡形もなく消えていた。 「はぁぁ~…」 一気に緊張が解けてその場に座り込んだ。 何だったんだ、あれは…?
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加