君と街まで

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誰もいない無人の駅。 いわゆるゴーストステーションに今日も私と彼女は電車を待ち続ける。 彼女は読書、私は煙草を、いつも通り一切の会話無しにお互いに暇を潰し定刻を待つ。 「禁煙ですよ、ここ」 はずが、初めて彼女が私に声をかけたのだ。 「あ、でも……ちょっとぐらいなら」 「貼り紙があります」 「……そう、だね」 ハッキリとした物言いが実に彼女らしかった。 「あのさ」 「はい?」 「もしかして煙草嫌いだった? 今まで我慢してたとか」 我ながら馬鹿なことを聞いている、制服姿の女性が煙草を好きなわけがないだろう。 「嫌いです」 ほらな。 「でも貴方のは好きです、すっごく甘いチョコレートの匂いがするので」 「ああ、カカオ配合の煙草だから……甘党でさ」 「へぇ、奇遇ですね」 彼女は少し照れ臭そうに本を私に向けた。 「これも甘い恋愛小説なんですよ」 END。
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