第1章 失恋の夜

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1 失恋の夜 「・・・別れよう。」 彼氏の基(もとい)から、その言葉を聞いても、 言葉の意味はわかるけれど、体が受け入れてくれなかった。 だって、私たちの関係はこれで終わるとは思えなかった。 「・・な・・んで?」 私の家で夕食を食べて片付けをした直後の話だった。 基は目を伏せて、床に何かあるかのように じっとフローリングを見つめている。 「その方がお互いの幸せだと思う。 今なら新しい人も見つけることができる。」と言った。 私、吉永美都(よしなが みと)は 緑川基(みどりかわ もとい)と、 大学時代から付き合いだして、社会人5年目の27歳だ。 たまにけんかをして、社会人としてのお互いのずれを感じつつも 週末を一緒に楽しんで、これからの未来だって、 一緒にいたいと思っていた。 それは私一人の思い込みではなく、 基の態度からもそう思ってくれていると感じていた。 けれど、どこかで気持ちが離れて行ってしまっていたのだろうか。 「・・・嫌いになったの?」 思わず男性が別れるときに、うざがられるような言葉を言った。 基は静かにゆっくりと首を振った。 やわらかそうな髪の毛が首の動きに合わせて、さらさら揺れた。 「私は基と一緒にやりたいこと、まだまだあるんだよ。」と言った。 今までの一緒に食べた美味しい食事とか、 旅行で行った北海道のことが 走馬灯のように頭に走った。 そして、その楽しい経験がこれで無くなるかもしれない。 そう思うと、じわっと寂しさが広がり、思わず涙ぐんだ。 泣くのはずるいと思ったけれど、一度涙が出た瞳は どれだけ我慢しようとしても、涙があふれ出てくる、 「・・・っ。」 あふれる涙が止まらず、体が震えて思わず小さく嗚咽をして、 下を向いて顔を手で覆った。 頭に血が上っているのか、頭が熱くなり、 体に飛び火して、全身が火照ったようになる。 そのままどのくらいの時間が経っただろうか。 「・・・本当にごめん。」 そういった後、静かに基は私の家を出て行った。 ドアの閉まった音が聞こえて、こらえきれずに声を挙げて泣いた。 大きな声を出せば、気持ちが紛らわせる気がした。 なんで? 何が駄目だったの? 「ふっ・・ぇぇぇっ・・ん。」 フローリングに頭をあてて、声がかれるまで泣いた。 薄明るくなってきた日差しに気いたが、 そのうち疲れ果てて寝てしまった。
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