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逐次、私。
火種が落ちた。口の筋肉の動きだけでタバコを吐きだし、地面に落ちる前につま先で蹴り上げた。
吸い殻は放物線を描いて5メートル向こうのゴミ箱入れに飛び込み、その姿をくらませる。
タバコの煙は、喫煙者の吸い込むニコチンそのものよりも、喫煙者の吐きだす副流煙の方が有害らしく、非喫煙者の第三者が最もその悪影響をこうむるらしい。
同じだな、と思った。この乱立する煙突から垂れ流される煙幕は、無責任に私腹を肥やすためだけのエフェクトであり、それに伴う他者への被害は一切考慮されていない。
同じだな、と思った。人間も、この街も。
タールで黒塗りされた作業着で、どぶの水変わらない色をした缶コーヒーを片手に、副流煙発生装置を口にくわえて無邪気に笑う大男たちはここの筋肉であり、捨て駒たちと変わりない。
今日もくたびれた始業ベルが鳴り響いた。
私は腰元から電子機器を取り出すと、赤塗りされた起動ボタンを押し込んだ。
「本日ノ排除指定:1名」
羽織っていたトレンチコートのポッケへ手を差し込み、回転式拳銃の手触りを確認した。
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