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さて、私がこの場で何をしているのか、についてだが。
決して酒を飲んで街を行脚する浮浪者ではない。こうみえて、国家から必要とされる程度のキャリアは積み上げているのだ。
ただ、つい数時間前に「お前自身が思っているほど必要ではない」と寝踏みされ、ヤケになっているところだ。
テーブルの上には、何度も読み直した文面が、クロスの上に、もう一枚のクロスであるかのように佇んでいる。
マーチ・スタイナム氏。特別委員会の厳正なる選考の末、第3期特別治安維持課採用試験においての、貴公に対する合否判決を以下のものとする。
――不合格。
何十回、何百回と同じ文字を読み返すが、そこに誤字や宛先間違いと思われる落丁は存在せず、ただ最初にこの文章を読んだ時の衝撃を追体験するだけであった。
「別にいいじゃないの。特別治安維持課なんていったら、あなたみたいな市政局員の中では一握り中の一つまみしか合格しないらしいじゃない。そんなに気を落とすことではないと思うけど」
「酒場で愛想を振りまいてりゃお金が飛んでくるお前にゃ、一生わかんねえよ」
「うーん。なんかもう不合格になった理由がわかった気がする」
「うるせぇや。酒くれ。酒」
「それにしてもまぁ、真昼間からこんな国家臭い発泡酒飲めるわねぇ」
「俺の勝手だよ」
先ほどから私の会話相手兼ウェイターとして接待してくれている、彼女、ピムは、呆れ顔をわざとらしく見せながら席を立つ。
私より1回り大きい体躯で見下ろし、赤色のエプロンはシワを寄せるように影で表情をゆがませた。
ため息を吐く音が聴こえた。顔を上げるとその場に彼女はおらず、店の奥に消えていく足音だけが店内に数秒間居座って風に消えた。
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