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「わざわざ?」
「本当は、祝杯をあげるためにとっていた休日なんだけどなぁ」
ふーん。と、鳴らす彼女の鼻は、一見すると関心が向いていない故の反応に見える。しかし噛み砕いて解釈するなら「興味がないから失せてほしい」であり、おそらく腹の底では「さっさと帰れよ」と悪態を吐いているに違いなかった。
窓の外はどんよりと薄黒い幕がかかりだし、朝方には姿があった太陽も今は雲の中に身をひそめてしまっている。
仕方がないので、この食堂に次に入ってきた人物と入れ替わりで出ていこう。出来れば雨が降る前に。
と、決定した矢先のことだ。客が入ってきた。神様め、待っていたのだな。
「いらっしゃーい」
ピムにとっては助け舟だろう。心なしか、声のトーンが上がっている。
私がこの場ですでに「鼻つまみ者」とされているのは、食堂内の不可視的な状況として見て取れた。このままでは私が「国家臭い」と笑われてしまう。
男という生き物として、引き際はしっかりとしておきたい。立つ鳥跡を濁さず、とやらである。
勘定を済ませようかと席を立とうとするが、今しがた入店してきた客が、私の背後で足を止めた。
頼む。どこかに行ってくれ。
「マーチ・スタイナム氏ですか?」
「そうだが」
「市政局の者です。あなたに宛てた手紙があります」
「そんなの家のポストにでも入れてくりゃいいだろ」
「重要書類なので、直接手渡すよう指示されているのです」
「そもそも、どうしてここにいるのがわかったんだ? 有給の理由欄には知人の葬式と書いたはずだが」
あんたサイテーね……。ピムがつぶやく。聞こえない、聞こえない。
「一度あなたの家に訊ねたのですが留守でした。あなたの上司に尋ねたところ、この店をあたってみるよう言われまして」
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