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見たところ、若手の男性職員だった。黒い短髪は手入れが行き届いており、若々しさとタイトな印象が、黒いスーツと相まって両立されているよう感じた。
おそらく運動は得意な部類だ。黒く焦げた肌はサロンなどによるものではなく、太陽の紫外線を直に浴び続けているからこそ特有の、『匂い』があった。
「ああ、直属の上司、ね……」
できれば出勤日以外は忘れるよう心掛けている、とある男の首から下までを思いだす。顔まで出てしまえば、残りの休日が最悪な日になってしまうからだ。
どうやら葬式の理由は嘘であると見抜かれていたらしい。
こうなると居留守を使ってこの手紙を受け取らずにいては大目玉に間違いない。
「わかった。いただこう」
手紙を渡した市政局員は小さくお辞儀を見せ、私から背を向けた。
足の向う先は出入り口に定められていて、もうすぐにでも退出しようというつもりなのだろう。
「あ、待ちなよ」ピムが制止する。その手にはいつの間にやら準備したのか、作りたてのアイスコーヒーが握られていた。
「せっかく来たんだから、休憩していきなよ。蒸し暑いでしょ?」
「いえ、次の用事が急ぎなので」
「5分くらいなんてことないさ。ほら、ここのマーチ君がアイスコーヒーおごってくれるってさ」
「一言も言ってない」
「いいじゃないか。未来を担う若者に、ちょっとだけ投資するつもりでさ」
「申し訳ありません。失礼します」
まったく感情が含まれていない。ただ機械的に断り、謝り、出ていった。カランコロン、とベルの音がむなしく響く。
「市政局員の若者って、みんなあんな感じ?」
「俺も若い時はあんな感じだったぞ」
「まぁあそこまで色男ではないと思うけど」
「いやそこじゃねえよ」
手渡された手紙の『マーチ・スタイナム氏』とタイプされた文字のインクは、相当に古いものを使っている。
重要書類である証拠だ。
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