第1章  甘い声、それは罠

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「や...誰のとかじゃなく、私、通りすがりの者でして」 「あ、もしかして看板見てきたの?」 「そうです...」 「なるほどね」 彼は、ふわっと微笑み、嬉しそうにうなづいた。 「あれ、俺が作ったんだよ。もうすぐブランド立ち上げるからさ。ちょっと地味かなって心配だったけど、あんたに見つけてもらえてよかった」 そう言って、無邪気な少年のように足取り軽く、私に近づいてきた。 「一人目のお客様。アンベリールへようこそ」 そう言って、スっと膝まづいた。 「え、え...」 「なんだよ、喜べよ。記念すべき一人目なのにさ」 戸惑う私に、彼は笑いながら言った。 その様子を見て、私は肩に力が抜けた気がした。 「これ、あなたが作ったの?」 「ワンピース?」 「はい」 ワンピースを指差すと、彼はうなづいた。 「俺はデザイン担当だからね。俺が作ったようなもんだな。でもこれほかのメンバーに聞かれたら殺されちまうかな」 クククと笑いながら、彼はワンピースの裾を手にとった。 「着てみる?」 「い!いえ!遠慮します!」
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