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ピピピピピ
「んー...うるさいうるさい」
ベッドの隅っこに置いたはずの目覚まし時計を手で探り、やっとの思いで止めた。
朝目が覚めて、最初に軽い頭痛に襲われる
痛みが収まると今度は、ついさっきまで見ていた夢を反芻していた。
扇風機が壊れて、爆発して、大騒動したこと。
(ありえない)
職場に行ったら小学校の同級生が何故かたくさん転職してきたこと。
(顔がぼやけて、よくわからなかったけど)
そして、ふと頭の中をよぎる、白いワンピース。
初めて全身で『可愛い』と思えた服。
(・・・ああ、これは夢じゃない)
はっきりと、彼の声を思い出せるからだ。
『また来てくれる?』
あの時私にかけられた言葉は、ひと晩過ぎると甘い呪いになってしまった。
あんな夢みたいな場所、今の私は絶対近づいてはいけない気がした。
「私の現実は、こっち」
昨晩のうちから出しておいた、今日の服に目をやった。
冴えないカーディガン、何年も履き通したヨレヨレのスカートだ。
服に袖を通し、鏡を見ずに長いボサボサの黒髪をくくる。
顔を洗って水を飲んでパンをかじって、私は職場に向かった。
足取りはとても重かった。
オフィスは8回建てのガラス張りの建物で、とてもスタイリッシュだ。
高いヒールを履いた女性たちが、続々とエントランスを通り抜けていく。
その中に、一人の女を見つけた。
モテ女子の象徴的存在とも言える、マユカだ。
彼女はエントランスへ近づく私を見つけ、逃さなかった。
「あ、先輩」
よそ行きのぶりっ子声だった。
「おはようございますぅ」
語尾にハートマークが見えてしまうほどに。
「...おはよ」
作り笑いをする自分が情けない。
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