第1章  甘い声、それは罠

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「昨日は本当に残念でしたねぇ...マユカ、なんかすみません。尊敬するハル先輩の、大事な仕事とっちゃって」 「気にしないで、私これからまた頑張れるから。」 少しでも早く、マヤカから離れたかった。 けれど部署が同じ彼女とは、6階の企画部まで一緒に行かなければならない。 エレベーターを待っている途中、マユカは言いづらそうに話を切り出した。 「あのぅ、先輩...。もうひとつ申し訳ないことがあって」 「なあに?」 イライラしていた。 傷つける気マンマンのこの子の言い方に、とても。 「わたし、昨日から、田島先輩とお付き合いすることになったんです」 「え?」 想像を超える発言に、私は思わずマユカの方に身体を向けた。 「おめでとう」 わけのわからないままお祝いの言葉を口にする私を見て、彼女はとても満足そうな顔をした。 「田島マサユキ先輩。ハルさんと一か月前まで付き合ってたんですよね?」 「うん、そうだけど。マサユキから告白したの?」 「いえ、私ですよぉ。ずっと気になってましたもん」 栗色のふわふわした髪の毛を指でいじりながら、彼女は夢心地のような表情を浮かべ、「かっこいいですよね、彼」と呟いた。 「そういえば、田島先輩のこと、まだマサユキって呼んでるんですね。未練たらしくないですか?苗字で呼べばいいのに」 「ああ、そうだね...そうするよ」
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