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入社してすぐ付き合い初めて、一か月前別れた男。
自己中で、とても男らしくて、我が道をいく男。
つまらない女だなと捨て台詞を残して私を振った男。
別れた時に涙が出なかったとはいえ、私は彼のことが必要だった。
初めての彼氏だったし、好きと言ってくれたし、彼に依存していた。
そんな彼とマユカが付き合い始めるなんて。
惨めすぎて、言葉が何も出てこなかった。
エレベーターに乗ってからフロアに着くまでずっと、マサユキとマユカが手をつないで歩く姿を想像して、吐きそうになった。
「あ、じゃあ私会議の準備するんで、資料コピーしておいてもらっていいですかぁ?ハル先輩」
返事をする気力が残っていなかった私は、愛想笑いのままうなづいた。
マユカはそれを満足そうに見届けてから、パタパタと小走りで自分のデスクへと向かった。
彼女は今、私が持っていないもの全てを持っているのだ。
羨ましいなんて、これ以上思いたくないのに。
その日は一日中事務作業をしていた。
なんとなく企画部にいるのが気まづくて、休憩時間はそとに出て、定食屋でランチを食べた。
オフィスに帰る途中、近くの公園のベンチに肩を並べるマユカとマサユキが見えた。
(最悪だ...)
コーヒー片手に楽しそうにおしゃべりをしている二人を遠目に見て、泣きそうになった。
なんて醜い女なんだろう、私。
別れた時は泣けなかったくせに、今はマユカへの嫉妬で涙を流しそうになっている。
結局私は振られるまでずっと、『イケメンの彼氏を持つ自分』に酔っていただけなのだ。
「あれ?」
公園の前で立ち尽くしていると、背後から急に声がした。
「昨日の子、だよね?」
「あ」
もうすぐそこまで出かけていた涙が、いとも簡単に引っ込んでしまった。
そして、『助かった』って思った。
振り返ったそこには、大きな白い紙袋を肩に提げた、アンベリールのハルが立っていたのだ。
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