第1章  甘い声、それは罠

15/20
前へ
/20ページ
次へ
「ハルさん」 「あれ、俺名前教えたっけ?」 「昨日呼ばれてたから。ほら、ほかの部屋の中から、男の人の声で。ハルって呼ばれて出てきたでしょ?」 首をかしげる彼に、私は慌てて説明した。 「そっか。そうだよね」 彼はまた、髪の毛をクシャリと掻いて、フワリと笑った。 猫毛のようにふわふわな黒髪が揺れている。。 (この人の空気感、好きだな) 柔らかくて不思議で甘くて、少しだけ危険な未知の香り。 目を合わせていると、自分がどんどん彼の世界に吸い込まれていきそうになる。 「なんで、ここにいんの?」 「職場がこの近くなんです。styleっていう雑誌の」 「まじかよ」 彼はとても驚いたような顔をした。 「どうかしましたか?」 「それがさぁ」 肩に掛かっている紙袋を地面に下ろして、中を開いて見せた。 ちょいちょい、と手招きをされ、わたしは紙袋の中身を覗き込んだ。 「これ見て」 「あ、昨日のワンピース。売り込みですか?」 「そうそう。今ね、これ持ってstyle編集部まで行ってきたわけですよ」 「...どうだったの?」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加