第1章  甘い声、それは罠

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「それにしてもさ。どうして、こうなっちゃったかなぁ...」 店員にカシスオレンジをオーダーしたあと、今日の女子会(女子二人だけど)の本題に話題を移した。 「話がトントン拍子に進んでさぁ。なんていうか、『うまくいきすぎ』とは思ってたんだよね...」 そう言って私は、共感を求めてユキコを見つめた。 確にそうだよね、と、ユキコはため息混じりに言った。 昨日までの私は、今までの23年間の人生の中で一番輝いていた。 ファッション雑誌『style』の企画部で、一番人気のコーナーのリーダーに抜擢されていた。 勤め始めて二年目の、今年の春に。 流行りの服をブランドごと紹介していく、見開き4ページの大人気コーナー。 有名どころから名が知れていないオシャレなブランドまで、足を運んでは交渉、撮影し、オフィスに戻り、記事をレイアウト。 5ヶ月間ずっと、毎日締切に追われつつ、必死になって頑張っていた。 ところが今日、急にリーダーを降ろされたのだ。 「ねえ、なんでリーダー降ろされたの?編集長になんて言われたの」 怪訝な顔で、ユキコが質問してきた。 ユキコは営業部だから、こちらの部のことは詳しく知らなかったのだ。 「毎月代わり映えのない服ばかり紹介されていてつまらないから、だって。」 確かに自分自身、手応えがあったわけではなかった。 選んだ服やブランドの選択にこだわりも自信もなく、熱くなれないまま締切を迎えているのも自覚していた。 プライドが邪魔をして、コーナーがおもしろくないという現状から目を背けていた私が悪い。 私の作るコーナーには「あ!かわいい!」という小さな感動や、「これすごく素敵!」と体温を上げる魅力が全く無かった。
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