第1章  甘い声、それは罠

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「『成功が早いと落ちるのも早いんですね』って。あの子、ハルに言ったじゃん。あれはさすがに腹が立ったわ」 ユキコが言うあの子とは、私が企画を降ろされた後すぐに後任に着いた後輩のマユカのことだ。 1歳年下の彼女は、今年入ったばかりの新入社員。 モテ顔で、モテ服を着て、モテ仕草を身につけた典型的なモテ女。 ...とユキコはよく言っていた。 自信たっぷりのマユカは、ダサくて見栄えの悪いわたしをいつも馬鹿にするような目で見ていた。 きっと今頃、すぐ仕事を降ろされた私のことを馬鹿にしていることだろう。 そう思うと、胃がキリキリと痛む。 「あー。明日仕事行きたくない。むしろやめたい」 テーブルに突っ伏して、ため息をついた。 見た目も中身もパッとしない、恋愛もうまくいかない。 だから仕事だけは頑張ろうと思った矢先にこの有様。 後輩にも仕事取られて馬鹿にされて。 なんて冴えない女なんだろう、わたし。 「まあまあ。まだ二年目だし、これからじゃん。私たち」 突っ伏していた顔を上げると、ユキコが優しく微笑んでいた。 「今日はとことん飲んで、さっぱり忘れる!んで、明日から頑張る!ね?」 「うん...」 ちょうどいいタイミングでカシオレが届き、私は無言で飲み干した。 「とりあえずハルは、見た目をどうにかしようよ。スタイルいいし顔立ちは最高に可愛いのに、もったいないよ、ボロボロで」 「ん...」 「ほら、服装変えるとか、コンタクトにするとかさ。その野暮ったいメガネなんか、捨てちゃいなよ。人生変わるからさぁ」 「...」 酔ったせいなのか、ユキコの声は私にほとんど届いていなかった。 アルコールがじわりと回り、朦朧とした意識の中で、涙で発散させることのできなかったやるせない気持ちを、静かに削除していった。
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