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午後11時。
店を後にして、私は駅へ、ユキコはバス停へ向かおうとしていた。
交差点の赤信号で立ち止まると、ユキコは心配そうな顔で私を見た。
「ホントに大丈夫?一人で帰れる?」
「うん、大丈夫」
ヘロヘロと笑う私に、ユキコは眉をひそめた。
「だから言ったじゃん。飲み過ぎだって。」
「へへへ」
「まぁ、とにかく明日も仕事おいでよ?」
「はいはぁい」
私はこっちだから、と、ユキコは東の方面を指差した。
フラフラする足になんとか力を入れて、オッケーオッケーと言いながら私は手を振った。
離れていくユキコの後ろ姿を眺めながら、ふぅ、とひと呼吸。
息を吐く度に、喉を通る気体の湿った暖かさを感じる。
(こりゃあ私、相当のんだなぁ)
駅の方へ向かって歩いていると、アパレル店が並ぶ通りへ出た。
リーダーになってから通いつめたエリアの一つ。
しばらく歩いてから、ピンクを基調としたガーリーなお店の前に立ち止まった。
(このお店、よく来たなあ)
最初は照明が消えた店内を眺めていたけれど、ふとショウウィンドウに、自分の姿が写っていることに気がついた。
会社に行く時、私はいつも適当に服を着て、鏡も見ずに家を出ていた。
自分の姿をじっくり見るのは久しぶりのことだった。
「...」
右手を自分の頬に当て、次に着ている服を掴んだ。
(ファッション業界で働いてるとは思えないほどのダサ女...)
お洒落したところで何の意味もなかったから、今まで頑張らなかった。
着ている服がくすんでいると、何にも持っていない空っぽな女のように思える。
かと言って、今の私がこのお店の可愛い服を着こなせるとは思えない。
着ている服のせいなんかじゃない。私自身がダメなのだ。
(いかんいかん。めっちゃネガティブになってるし)
もう自分の姿を見たくなかった。
現実と向き合うことになるからだ。
今は酔ってふわふわした気持ちのまま、家に帰ってしまいたかった。
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