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再び歩き出し、アパレル通りを通り抜けた。
駅が近づいて来て、カフェが多い通りに来たとき、違和感に気がついた。
いつも仕事帰りに寄っていた、大きな二階建てのカフェの前に、レトロな看板が出ているのだ。
恐る恐る近づき、看板の前に屈むと、白い文字がはっきりと見えた。
Atelier Enbellir
「アトリエ、アンベリール」
ファッション業界にいる、多少のフランス語は読めるようになる。
読めるだけで、アンベリールの意味まではわからないけれど。
アトリエ。服を作るところ。
看板のすぐ近くに、地下に続く階段があるのだ。
てっきり、ここの地下はBARか何かが入っているのかと思っていたのに。
いつも来ていたカフェの地下が、アトリエだったなんて。
(ノーマークだったなぁ)
その時、私は何を思ったのか、何の迷いもなく地下に続く階段を降りた。
近代的な漆黒の大きな扉には、小さな文字で『atelier enbellir』と刻まれている。
片手でノックをすると、扉中に振動が響き渡るだけで、中から応答はない。
扉に両手をついて、そっと力を入れると、その扉は鈍い音を立てながら少しだけ開いた。
(鍵かかってないじゃん。入っちゃえ)
扉を大きく開けると、ふわっと甘い香りを乗せて、中から風が吹き抜けていった。
ぼんやりとした明かりがたくさん灯り、レトロモダンな雰囲気のアトリエだ。
中に入ると、とても広くて、不思議な世界が広がっていた。
大きな空間のいたるところに、布、図面、材料、テーブル、ミシン。
そして壁には、不規則に配置された5つの扉。
入口から見て、右にひとつ、左に二つ、奥に二つ。
コツン、コツンと歩くたびに音を立てるコンクリートの床。
奥へ入っていくと、私は思わず息を飲んだ。
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