第1章  甘い声、それは罠

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「可愛い...」 その言葉しか、思い浮かばなかった。 真っ黒なマネキンに着せられた、真っ白なワンピース。 ウエストのくっきりとしたタイトな形をベースとし、ふんわりとしたチュール素材が重ね付けられたトップ。 いたるところに小さなパールのビールに、細めのリボン。 派手ではないけれど、一瞬で目を引く。 女の子が欲しがる可愛さを惜しみなく、絶妙なバランスで取り入れてある。 他の店では見たことがないデザイン、でもパーティー用だけじゃなく普段着にも使える、素敵な一着だった。 しばらく見とれていると、扉のうちのひとつから、ガタガタと音がした。 ビクっとカラダを縮ませて、私は息をひそめた。 (やっぱり!誰かいるんだ!てゆーか私、勝手に入っちゃって...どうかしてる...) バレないうちにこっそりアトリエを出ようと思ったその時、物音がした扉の向こう側から、声がした。 「ハルー!」 ドキリとした。 (なんで私の名前を?) 息を殺して、声がしてきた扉をじっと見つめることしかできなかった。 (しかも、勝手に入ったこと、バレてる...?) 「ちょっとこっち手伝って!ヤバイってマジで!」 切羽詰った声が、また聞こえた。 「おい、ハル、仕事場にいるんだろ!?」 今度はしびれを切らしたような、苛立つ声。 私、呼ばれてるの? 手伝えってこと?
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