第1章

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日本人と言えば、風呂と思う人は少なくないだろう。裸の付き合いというものもあるし、風呂は日本人、特有のものかもしれないという物語。 「♪♪」 真朱は、その日、とてもご機嫌だった。特に何かいいことがあったわけじゃないけれど、真朱にとって楽しみがあったのだ。 「ふふ、やっと私が一番風呂です」 ポニーテールの尻尾を揺らしながら、自然と鼻歌がもれる。真朱の住む家は屋敷と呼ぶほど広く、当然、風呂も広いが、屋敷には真朱のほかに数人の居候連中が住んでおり、誰が最初に風呂に入るかいつも競争になってしまう。 別に一番風呂にこだわってはいないけど、一番というのは気分がいい。金髪の少年あたりは、全員で一緒に入ればいいだろと言っていたが、それはダメだ。一緒に風呂に入ると、いろいろと比べて不毛な争いが起こる。特に、最近やってきた熊の着ぐるみ少女とは誰も入りたくない。 なので、毎日、風呂に入る順番をゲームで決めている。そして、今回は真朱が一番だった。 みんなには悪いが、ここは遠慮なく一番風呂を堪能させてもらおう。真朱も女の子なので、綺麗になることは嫌いではない。 ポニーテールをほどき、服を脱ぐ、鏡にうつる自分の裸体は小学生としては発育はいい気がするけれど、熊の着ぐるみ少女や蛇女と比べると、見劣りしてしまう。 純粋な年の差と言えばいいが、それは大人の魅力が自分にはなくて、彼女達にはある。 あの金髪少年に振り向いてもらうには、大人の魅力が欲しい。ないものねだりしても無駄だとため息をついて、浴室に入った。 浴室に一人で立つと、改めてこの屋敷の広さを痛感させられる。裸になり、一人になると寂しさがやってくる。 あの金髪少年と出会う以前、真朱はゴミのように扱われてきた。風呂に入るのも、ご飯を食べるのもいつも後回し、まるで自分はそこにはいないような、そんな扱いを受け続け、とある怪物の目覚めと共に真朱の両親は骨も残さずに、この世から消えた。 ただ広かっただけの屋敷が、自分にはとても不釣り合いに感じ、両親がいなくなり、どこに行っていいかわからず、人喰いの化け物に怯え続ける自分の人生に悲観し、絶望のどん底にたたき落とされた矢先、 「山都様」 金髪に赤色の衣を身に纏う少年が、解決してくれた。その出来事を思い出すと、未だに胸が熱くなる。自然と頬が緩み、 「なにやってんだ。真朱、風邪、ひくぞ?」
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