うさぎ

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「何もしなくてもいいんです。でも、強いて言えば。あなたを聴かせてください」 「……声?」 緊張と羞恥で、聞き返した言葉は擦れていた。 「もし、声が出なかったり、出したくなかったりしたら、それで構いません。あなたの息遣い、鼓動……あなたの全てを聴きたい」 私は、凝り固まった両手を、恐る恐る動かす。 長い肩の上を滑り、その上の滑らかな首を包み込んだ。 手のひらの下がドクドクと、脈打っている。 先生の、命の音だ。
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