うさぎ

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訊かれた瞬間に、自然と頬が綻んでしまった。 その顔で、八田先生を見上げる。 先生の漆黒の瞳が、蕩けるように光った。 ゆっくりと望に向き直って、締まりのない顔で頷いた。 「……だったら、仕方ないか。どうせ、今のところは先生くらいしか託せる人いないし」 頭の後ろで腕を組みながら、そんなふうに言って、リビングへと入っていく。 「……まあ、確かに。今のところはな」 よっちゃんも続いて、一歩後ろに下がった。 二人とも、「今のところ」をやけに強調している。 「悪かった。体、痛くないか」 「ええ、大丈夫です」 先生の胸を一度軽く叩いて、よっちゃんも去る。 嵐が過ぎたようだった。
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