はる

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「紗は?」 「ああ……それ訊く? 紗は……布のことだよ。薄い絹の布」 「ふうん」 音だけで、特に意味はなかったんだろうと納得した後に、よっちゃんの説明が続く。 「よく風を通すように。光を通すように。人を通すように。良い出会いをたくさん重ねられるように。自分たち夫婦が出会ったように、これまでたくさんの人に支えられてきたように、良い人たちと巡り合い、幸せな人生を送れるように。そして、周りの人を軽やかに優しく包めるように。 俺、それを聞いたときにさ、弟に惚気るかとか、生後一日でどれだけ親バカなんだとか笑ったけど、でも、良い名前だと思った。 俺が子どもの頃、兄貴に漢字なんて訊いたところで、辞書引けって怒って誤魔化して、ろくに答えられなかったくせに、子どものためとなると、よく考えるもんだよな」 気づくと、望がすぐ近くにいた。 よっちゃんは、私たち二人をしみじみと眺める。
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