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ほっと胸を撫で下ろしたその時、私の耳は確かに声を捉えた。
「しっ、静かに。誰かいるわ」
私は意識を聴覚へと集中させる。
泣き声だろうか、むせているのだろうか、とにかく、人が発しているだろう音が溶岩流の迫り来る音に混ざって微かに聞こえる。
「右よ! 山道を少し外れた崖の下辺り。確かあそこには、子どもだけが通れるような穴があったはず」
「分かった。ジェシカ、あっちだ!」
キアーー
地元の子どもがふざけて立ち入り禁止の場所で遊んでいたのだろうか、もしかしたら地震のせいでどこかから転がり落ちたのかもしれない。とにかく、急がないと。
「砂埃が酷いな。見えるか、クレハ」
「目視は厳しいわね。けど、音を頼りになんとか」
音のする辺りは空気だまりがあるのか、舞い上がった粉塵が視界を遮る。更には溶岩流の熱気で呼吸すら困難になってきた。
「空はまだましなんだが、地面に近寄ると辛いな。ジェシカもだいぶ疲労してきたみたいだ」
「こんな環境の中飛ぶことなんてそうそうないものね。分かった、さっさと終わらせましょう。ジェシカに一度大きく羽ばたかせて、視界が開けた一瞬で私は降りるわ」
「待て、だったらせめてもう少し高度を落として」
「それはジェシカが厳しいと思うの。これからもしかしたらもう一人乗せて麓まで飛ぶことになるのよ。無理はさせれない」
しかしアオトは容認しなかった。唸り声をあげ、思考を巡らせているようだ。頭を使うなんて、アオトにしては、珍しいじゃない。
「平気よ、棍で着地の衝撃を和らげるから。そのあとは光を出すからそこに向かって一気に飛んできて。恐らく下にいるのは幼い子ども。一瞬で子ども抱えてジェシカに乗るから。頼んだわよ、アオト先輩」
私は問答無用で粉塵の中へ飛び込んだ。無計画すぎるって?
心配ないわ。だって私、常人には聞き取れないような音が聞こえるくらい、いろいろと特別なところがある種族の生まれだから。
上から私の名を呼ぶ声が聞こえる。でも、ちゃんと高度は維持してるみたい。良かった。
棍に気を込めて地面に突き立て、わざとしならせ衝撃を吸収すると同時に受身の体勢を取り無事着地する。やはり空よりも空気が悪いか。
棍は残念だが使い物にならない状態になってしまったのでそこに放置することにし、再び意識を聴覚へ持っていく。
聞こえる、子どもがむせる音。けど、しっかり呼吸はしている。
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